下北沢の「次世代型学生寮」で、高校教員がプロボノ体験。運営の相談に乗るだけで役に立つことができた

「 現場の知見や経験を活かすプロボノ 」
高田修太さん(HatchEdu- 受け入れ団体:一般社団法人HLAB)
山本富夫さん(HatchEdu – 2021参加者
慶応義塾高等学校 教諭)

HatchEduは、2020年にスタートした、教育プロジェクトを新たに立ち上げたい人と教育をプロボノ支援したい人のためのプログラムです。今回は、第2期の教育プロボノ支援コースの受け入れ団体「HLAB」共同創設者・COOの高田修太さんと、HLABの活動に参加した山本富夫さんにお集まりいただき、実際の活動の様子やその成果を伺いました。

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高校生向けの寮生活のルールをつくる

ー「HLAB」は東京・下北沢で、高校生・大学生・若手社会人までが寝食をともにする日本初のレジデンシャル・カレッジ「SHIMOKITA COLLEGE」を2020年12月から運営されています。もともとは、サマースクールなどの運営をされていたと思いますが、なぜレジデンシャル・カレッジを始められたのでしょうか。

高田:日本は自宅から学校に通う生徒が多いですが、アメリカでは、大学生の大半は寮生活をしています。僕自身もほかのスタッフも、留学した際に寮やシェアハウスで暮らしていた経験があり、そこで学校と同じぐらい、たくさんの学びを得たという実感がありました。僕らがつくりたい教育環境は、国籍や専門性、バックグラウンドは関係なく、多様な人々と日常生活のなにげない交流の中で進路や将来の話ができる場です。そこで、多様な人々が生活を共にし、起きてから寝るまでの時間で学び合うことのできる場を創造しようと、レジデンシャル・カレッジを立ち上げるに至りました。

HLABが運営するSHIMOKITA COLLEGE

ーHatchEduには第1期から教育プロボノ支援コースの受け入れ団体としてご参加いただいています。第2期ではどのようなプロジェクトの募集をされたのでしょうか。

高田:SHIMOKITA COLLEGEでは、これまで大学生と社会人が共同生活を送っていましたが、2021年9月から、高校生も3ヶ月間受け入れてみようということになりました。ただ、高校生は未成年なので、受け入れ側の責任はより重くなるし、3ヶ月もの長期になると想定外の問題が起きるかもしれない。万が一何か起こった時にどうすればいいのかもわかりませんでした。これを明らかにしていきたいということで「寮生活のマニュアルをつくる」という内容でプロボノを募集し、慶應義塾高等学校・教員の山本先生と、関西で学習塾・予備校業界に長くお勤めになられている方の2名にお世話になりました。

ー具体的にどんなことをなさったのでしょうか。

高田:実は、マニュアルづくりは早々に頓挫したんです(笑)。想定される問題が多種多様で、ケースバイケースの対応が求められるので、それらをすべてマニュアルに落とすのは現実的じゃないということになりました。

結局やったことは、ひたすら僕の悩み相談を聞いてもらうことでしたよね(笑)。アルコールやタバコ、無断欠席、無断外泊など、実際に起こりうるリスクを書き出して、週に1回のオンラインミーティングで、学校や予備校ではどうしているのかという具体的な事例を伺っていったんです。知らなかったことがたくさんあり、学びが多くて、あっというまに3ヶ月が経ちました。

SHIMOKITA COLLEGEは自主性や自由を大事にしたい場所なので、ルールでガチガチにはしたくない。でも、ある程度のルールは必要になる。どこまでをルールにするかをかなり悩んでいたので、現場にいる経験豊富なおふたりに相談できたのは本当によかったです。全員男性だったので、女性特有のトラブルについては別途、違う方にアドバイスをいただきましたが、それ以外の問題についてはおふたりとのミーティングでだいたいカバーできたと思います。

ープロボノの内容が「悩み相談」というのは新しいですね(笑)

高田:本当に、毎週ひたすら相談するだけでした(笑)。でもそれが新たな価値創造につながっていったというのは、今までにないプロジェクトの走らせ方だったと思います。

アドバイスをきっかけに、保護者とのコミュニケーションを大切にするように

ーHLABであれば、つながりのある学校の先生に相談したり、リスク管理のプロに業務委託することもできたように思います。なぜHatchEduを通じてプロボノを募集しようと思ったのでしょうか。

高田:教員の方々はみなさんお忙しいですし、こちらからは気軽に頼みにくいところが正直あります。だったら手を挙げてくださっている方にお願いしたほうが相談しやすいというのは前提にありました。あと、これは結果論なんですけど、経験豊富なおふたりだったので、こちらが想定していなかったこともたくさん教えていただけたんですね。これは、いろいろな人が参加しているHatchEduゆえに出会えたのだと思います。

たとえば僕らは、保護者とのコミュニケーションは最初と最後ぐらいでいいかなと思っていました。でも、山本先生たちから「保護者とのコミュニケーションは重要だよ」と伺って、きちんとやりましょうということになったんです。山本先生から「保護者のfacebookグループをつくって、修学旅行に行ったときにレポートを投稿した」というご経験を伺ったことをきっかけに、僕らもfacebookグループをつくって保護者の方に日常を報告するようになりました。LINEでこまめにやりとりをしたり、SHIMOKITA COLLEGEまで晩ごはんを食べにきてもらったりもしましたね。そうしたら、僕らと保護者の方だけではなく、保護者間もつながり、すごくいい関係性ができたんです。こういうことは、先生の中に暗黙知として貯まっているもので、それを直接伺うことができたのがよかったですね。

高田 修太さん

仕事をしながら学ぶのに「ちょうどいいもの」

ー現役の教員でもある山本さんがHatchEduに参加しようと思ったのはなぜですか?

山本:教員は、同じ学校に勤めているかぎり、やっている仕事は毎年そんなに変わらないんです。もちろん、日々の中で変化はあるので楽しいですし、飽きないんですけど、年齢が40歳に近づいてくると管理職を任されるようになってきて、身動きがとれなくなってくるんですね。その前にもう少し、自分にとって「学び」になることをやっておきたいと思いました。ただ、副業をやるほど時間があるわけでもない。だから、言葉はあまりよくないですけど「ちょうどいいもの」を探していたんです。それでたしか「教育 プロボノ」って検索エンジンに入れたんだと思います。そこでたまたまHatchEduを知りました。

HLABのサマースクールには慶應の生徒もたくさん参加しているのでよく知っていました。彼らを見ていると、かなり短期間の経験で、非常に多くのものを得ていると感じていたんです。かつ、高校生向けのルールづくりであれば、教員としての経験値の中で十分お手伝いができると思いました。これがもう一歩踏み出さないといけないような業務内容だったら、中途半端になってしまいそうで応募していなかったかもしれません。

ー自分自身が無理なくできる範囲で、協力できそうなプロジェクトだったということですね。一方で山本さんは、HatchEduのSlackコミュニティ「先生への質問箱」というスレッドで、すごく丁寧に、ほかの参加者の質問に答えてくださっていますよね。

山本:はい、日頃の経験から、こういったコミュニティを通じた外部の方とのつながりが大切だと考えています。勤務校では、国際交流委員やボーディングスクールに生徒を送るプログラムの立ち上げなどを担当していまして、情報収集のためにヒアリングするなど、外の人との交流が必然的に出てくるんですね。これらの業務のベースには「子どもたちに外の世界を見せたい」という思いがあります。だったら、私自身が外の人とつながっていないと説得力がないので、積極的に交流するようにしています。

山本 富夫さん

ープロボノの経験によって教育の中でのキャリアの広がりはありましたか?

山本:僕自身は、今の勤務校も教員という仕事もすごく好きなので、そこから離れるという気持ちはまったくないんです。そういう意味でのキャリアの広がりは特にないかなと思いますが、プロボノをやっていて感じたことがいくつかありました。ひとつは、日本では自分の専門性を活かして社会貢献する「プロボノ」と、自分の時間を寄付する感覚の「ボランティア」との違いが全然知られていないということです。なので、「自分が(プロボノとして)こんなことをやったんだよ」ということは、同僚にも伝えていけたらと思っています。また、何かをやったら必ず自分にも返ってくるものがあると思えたので、もう一歩進んで何かやってみようという気になりました。ずっと敬遠していた、娘の学校のPTAなどでも何かできたらと考えています。

教育セクターを知る入口としてのプロボノ

ーHatchEduに参加しようか迷っている方、特に同じ教員で迷っている方に、先輩としてアドバイスできることはありますか?

山本:参加したらすごく刺激を受けますし、週1回のミーティングもとても楽しい時間でした。ただ、やること自体が目的になってしまうと空回りしてしまうので、最初のマッチングで自分に合ったプロジェクトを選ぶことが大事になってくると思います。自分が熱意をもって取り組める内容かどうかを見極めることは、お互いのために大切だと思います。

ー山本さんはHLABのこのプロジェクトだったからこそ応募したということでしょうか。

山本:そうですね。たとえばHLABも、第1期ではまったく違う内容のプロジェクトだったと聞いています。今回はたまたま僕みたいな人を求めていたし、次に求めるのはまた違う人材になるはずです。だからそれは、ある種のご縁なのかなという気がしますね。

ータイミングもあるということですね。
高田さんからは、プロボノの受け入れを検討している団体に、メッセージをお願いしてもいいでしょうか。

高田:僕自身もHLABに社会人プロボノとして関わっていた時期がありますが、「プロボノ」をする人の強みは、何をおいても意欲と熱意だと思っています。教育は、子どもを対象にしているということもあり、どこまでが「仕事」なのか、ドライに線引きするのが難しいところがあると思います。だからこそ「これについて一緒に考えたい」という意欲や熱意があることが、すごく大切なんですね。ちゃんと思いがある人は「あるべき」を考えて動いてくださる。

そういう意味で、僕は教育とプロボノは非常に相性がいいと思っています。山本先生のようにすでに教育に関わられている方はもちろんのこと、キャリアチェンジまでは踏み出せずとも何かしら教育に携わりたいという意欲や熱意のある方にも、教育セクターへの入口としてHatchEduを積極的に活用してみていただけたらと思います。

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(※感染対策を万全に講じた上で対談を行いました。撮影時のみ、一時的にマスクを外しています。)

構成・編集:平川 友紀
撮影:島村 龍伍