マーケター、コンサル、アナウンサー。専門知識を出し合って教育に関わる”大人の部活動”の魅力とは

HatchEduは、2020年にスタートした、教育プロジェクトを新たに立ち上げたい人、教育をプロボノ支援したい人のためのプログラムです。2021年春に開講した第2期、参加者はどのような学びを得たのでしょうか。今回は、教育プロボノ支援コースで「株式会社Selan」の活動に参加した元NHKアナウンサーの田中泉さん、「一般社団法人HLAB」の活動に参加したマーケターの竹田美樹さんにお話を伺いました。対談当日のファシリテーションは、1期で参加者として2期では受け入れ団体としてプログラムを経験し、現在はHacthEduのスタッフでもある石井雅紘が務めました。

田中泉(たなか・いずみ)さん 
NHKで9年間アナウンサーを務めた後、現在はフリーで司会やキャスターなどとして人の思いを伝える活動を行う。HatchEduでは英語教育支援を行う「Selan」に参加。 (田中さんの個人サイト

竹田美樹(たけだ・みき)さん
マーケター。週3日をロート製薬で、週2日を地方発ベンチャー企業で働く。HatchEduではリベラルアーツ教育を行う「HLAB」に参加。

石井雅紘(いしい・まさひろ)
学生時代から教育プロジェクトに関わり、卒業後はマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。現在はマッキンゼーから出向し、HatchEduのスタッフを務める。

(以下、敬称略)

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場所が変われば、教育も変わる

石井:まずは私から自己紹介をさせていただきますね。大学時代に自分のキャリアを考えるなかで大学生向けのキャリア教育プロジェクトに参画し、それから10年近く細々と教育セクターに関わってきました。母が大学の非常勤講師だったことから“先生のエンパワーメント”にも関心があり、キャリア教育という括りで先生のお手伝いができたらいいなと思っています。

本業はマッキンゼーのコンサルタントですが、課外活動としてHatchEduの1期に参加しました。2期では理事を務めるJSBNという団体でプロボノの受け入れ側を経験しています。そのご縁がきっかけでマッキンゼーからISAKに出向し、現在はHatchEduにスタッフとして携わっています。今日はよろしくお願いいたします。

田中:2010年にNHKに入局し、富山、大阪、東京で報道番組のキャスターやリポーターなどを務めましたが、組織の枠を越えて仕事をしたいと考え2019年に退職しました。退職した年に出産し、いまは2歳の男の子の母として子育ても楽しんでいます。

産後しばらくは子育て中心の生活を送っていましたが、少しずつ興味のあることに手を出してみようと思いはじめたタイミングでHatchEduを知りました。もともと家族や親族に教育関係者が多く、アナウンサーを目指す前は漠然と自分も先生になるんだろうと思っていたんです。NHKでも、キャスターを務めた夕方のニュース番組の中でおもしろい取り組みをしている大阪の公立小学校を70校訪問・紹介する企画を持つなど、ゆるやかに教育への関心は続いていました。

その関心が高まったのは、やはり出産が大きかったと思います。子どもの教育についてさまざまな選択肢を知りたいという思いがあり、HatchEduに参加させていただきました。

竹田:新卒でロート製薬に入り、商品企画や新ブランド立ち上げなどのマーケティングをメインにしていたのですが、2021年に働き方を変えました。現在は、週3日ロート製薬で働き、週2日地方発ベンチャーのforestdigitalに勤務しています。

HatchEduのことは知人からの推薦で知りました。「マーケティングができる人に積極的に参加してほしいと思っている」と聞き、私も教育に関心が向きはじめていたので飛び込んでみようと思いました。

教育に関する原体験として思い出すのは、高校時代のことです。何でも生徒に任せる自由闊達な校風で、たとえば修学旅行も生徒が旅行会社とやりとりして企画するんです。小中学校では少し息苦しさを感じていましたが、初めて自由にチャレンジできる環境を与えられて、こんな風に学ぶのは楽しいな、と思いました。

価値観形成の面ではオーストラリアへ短期留学した経験も大きかったですね。オーストラリアの人は15時には家に帰り、楽しそうに豊かに暮らしていました。生き方や働き方が日本とは全然違うことに驚きました。

ロート製薬でも「一人ひとりの、そして社会のWell-being(ウェルビーイング)は何なのか」という問いを大切にしているのですが、そのなかで私の「ウェルビーイング」は「世界を広げること」「可能性をひらくこと」が根幹にあると気づきました。ちょうど北海道の浦幌町(うらほろちょう)で教育をテーマにした地方創生を始めるタイミングで、何かヒントをつかめるのではないかと思ったことも動機のひとつです。

石井:ありがとうございます。田中さんも海外で生活されていたと聞いています。

田中:生まれたのはイギリスで、幼稚園と小学校は日本の私立、中学校はニューヨークの公立に通いました。竹田さんと同じで、日本の学校には少し窮屈さを感じる部分もあったのですが、子どもにとって当時はそれが世界のすべてのような感覚ですよね。私はアメリカに行って違う世界もあると知り、とても自由になった気がしました。

授業スタイルも日本とは全然違っていておもしろかったです。数学のテストで「M&Mの中に赤のチョコはいくつあるでしょうか」という確率の問題が出たり、生物の授業で「食物が身体に入って出るまでの過程を物語として書きなさい」というお題が出たり。当時の日本では考えられない内容で、カルチャーショックを受けました。日本と海外、私立と公立、女子校と共学、それぞれを経験し、教育のスタイルは場所によってすごくさまざまなんだなと肌で感じました。

石井:実は私も海外経験がありまして。
オーストラリアに留学し日本人学校の授業サポートなどを行ったのですが、そのときに感じたのは、先生たちが忙しすぎて、自分の学びや成長するための時間が確保できていないということです。以前から母が家で採点を行う姿などを見ていて、「先生たちはこんなに自分の時間を削って頑張っているのに、どうしてそのアウトプットとして出てくる学校の授業は受験を意識した画一的なものになってしまうんだろう」という問題意識を持っていました。大企業なら研修も豊富だし、入社してしばらくは“若手”として扱われますよね。でも、先生たちは大学を卒業して教壇に経った瞬間から“先生”にならないといけません。こうした構造を何とかできないか、先生がもっとのびのびと働ける環境をつくれないかという思いを今も持ち続けています。

PRやマーケティングの専門知識を教育現場に持ち込む

石井:さて、豊富な経験を持つおふたりが今回HatchEduでのプロボノ先を選んだ理由を教えていただけますか?

田中:私がプロボノ先として選んだSelanは、バイリンガルのお兄さんお姉さんを自宅にお迎えする英語教育プログラム「お迎えシスター」を提供している団体です。自分の経験から子どもに「世界にはいろんな人がいていろんな文化があるんだよ」と伝えたいと思っていたので、言語とともに多様な文化や価値観を伝えるという理念にとても共感しました。若くバイタリティのある女性経営者がリードされている会社という点にも惹かれました。

アメリカで再会した田中さん(右)と Selan代表取締役 樋口 亜希さん

竹田:私も、プロボノ先のHLABに応募したのは「国境や世代を越えた多様な出会いと交流から学ぶ」という理念に共感したからです。人と出会い話をすることで新しい考え方を知る。それによって人生が変わっていく。私にもそういう経験があるので、多様な人が混ざり合う場はとても大事なんじゃないかと思っていたのです。

石井:どんなプロジェクトに関わり、どんな感想を抱きましたか?

田中:最初はメディア視点でPRのコツをお伝えして、途中からはリブランディングや英検対策のコース開発のプロジェクトをお手伝いしました。「アナウンサーという少し特殊な職業しか経験したことがない自分が一般企業で通用するのだろうか」という不安があったのですが、何気なく発した素朴な疑問や発言が新鮮に受け止められる場面もあって、異質な存在であることが強みにもなるんだと感じました。また、教育に関心はあったものの教育業界で働いた経験はなかったので、ノウハウや文化を内側から知ることができたのはすごくよかったです。

竹田:HLABでは、学生や若手社会人が寝食を共にする教育寮「SHIMOKITA COLLEGE」を運営しています。そのスペースを利用した新規事業を考えるプロジェクトに参加しました。時間切れで、リサーチをふまえた企画を形にすることまではできなかったのですが、子どもや学生とどう向き合うかを真剣に考えている方々と一緒に取り組むのは刺激も学びもありました。

石井:私は2期で受け入れ側を経験しましたが、自分たちとは違った背景を持つ方が入ってくると、それまでメンバー間で無意識のうちに共有してきた考え方を言葉で説明することが必要で、それが団体にとって、とてもよかったと思っています。自分たちが目指していることは何なのか、そのために次に何をするべきなのか、深く考え言語化する機会になりました。

石井さんが理事を務めるJSBNのワークショップの様子

さらに、田中さんと竹田さんは、PRやマーケティングという、教育セクターでニーズの高い分野の専門知識や経験をお持ちです。そういう方がプロボノとして参加してくれるのは、現場にとってはすごくありがたいことではないかと思います。

お仕事や育児との両立はいかがでしたか?

竹田:仕事が忙しい時期とかぶってしまったのですが、学びがあり、楽しかったので、なんとか続けることができました。「SHIMOKITA COLLEGE」には一度見学に行きましたが、基本はオンラインのやりとりだったので両立しやすかったです。

竹田さんがHLABでのプロボノで作成した資料

田中:私の場合は子どもが寝ている間の時間を使っていたので、あまり負担には感じませんでした。週に1〜2回オンラインでミーティングをして、あとは自分で作業を進める形でやっていました。

HatchEduは、多様な立場、多様なバックグラウンドの人と出会える場

石井:HatchEduのプログラム全体についてはどう思われましたか?

田中:起業を目指す人、プロボノとして教育業界を支援したい人など、教育に関心のあるさまざまな人と交流できるのはおもしろいし、そういう場があることはとても大事だと思います。最後の成果報告会では自分がまったく思い至らなかったテーマで発表している方もいらっしゃって、教育の幅の広さとともに、自分が知らないことがまだまだたくさんあるのだな、ということを感じました。これからもHatchEduの卒業生コミュニティで情報交換していけたらと思っています。

竹田:プロボノ支援コースは前向きでパワーのある方が多く、お話するだけでモチベーションが上がりました。また、起業家コースの方々の事業アイデアはどれもすばらしく、「こんな人たちがいるなら、日本の未来は明るいんじゃないかな」と感じました。これまで、どこか「教育は先生や保護者が行うもので、それ以外の大人や地域社会は子どもを見守るもの」と思い込んでいた気がします。HatchEduへの参加を通して、「大人はさまざまな形で子どもの教育に関わることができるんだ」という発見がありました。

石井:私もHatchEduに参加して、多様なバックグラウンドを持った方、多様な立場の方がいることを新鮮に感じました。人によって、それまでの教育への関わり方もさまざまですね。学生時代から教育業界に関わってきたので、教育系団体の方々はそれなりに知っているのですが、HatchEduには「いつもの人たち」じゃない人が集まっていた。その幅の広さに感銘を受けて、受け入れ側なら、主催者側ならさらにおもしろいんじゃないかと思って今に至ります(笑)。

プログラムを終えて、おふたりは今後についてどう考えていらっしゃいますか?

竹田:少子高齢化が進む地方では、1学年1クラスでずっと同じメンバー、同じヒエラルキーのまま育つ環境が少なくありません。多様性がなく、夢を膨らませる機会が少ないと感じます。近年、居住や観光以外の多様な形で地域に関わる「関係人口」という言葉が注目されていますが、そういった多様な大人たちと子どもたちが混じり合い、可能性を広げられるような事業を展開できないかと画策しています。

田中:HatchEduを通してたくさんの刺激を受けました。今後フリーランスとして仕事をしていくなかで、自分に足りないもの、ビビッとくるものを見つけたら、積極的に学び直しをしていこうと思いました。少しずつ仕事も再開しているので、まずは目の前のことを大事にしつつ、大学院のコースなども見ているところです。(田中さんはその後今年の2月より、社会や教育をテーマにしたダイバーシティニュースというラジオ番組でキャスターを務められるなど、ご活躍されています。)

田中さんには、アナウンサーのご経験を生かして
HatchEdu2期の最終イベントの司会を務めていただきました

石井:次のステージが広がっているのですね。最後に、HatchEduへの参加を迷っている方に向けて、メッセージをお願いできますか?

竹田:HatchEduに参加するまで、教育の世界ってすごく閉ざされているなと感じていました。子どもを守らなければいけないので仕方のないことですが、教育に関心があっても業界の外からどう関わっていいかわからなくて。きっと、同じように感じている方は多いのではないでしょうか。HatchEduでは、転職をしなくても教育セクターの内側に入ることができますし、同じ問題意識を持つ方々と横のつながりも生まれます。教育という分野に足を踏み入れる第一歩にぴったりではないでしょうか。タイミングさえ合うなら、飛び込んでみるといいのではと思います。

田中:当時育児中心の生活をしていた私が参加していいのかなと思いましたが、一歩踏み出し蓋を開けてみたら海外から参加されている子育て中のお母さんもいて嬉しかったことを覚えています。いろんな分野や立場の方がいらっしゃって、それぞれのご経験や知識が生かせる場であると思います。私も生活に張り合いが出ましたし、社会とつながっている感覚を持つことができました。純粋に楽しかったし、参加してよかったと思っています。気になる教育団体があれば、ぜひ一歩踏み出してみることをおすすめします。

石井:今回おふたりと話して、教育に多様な人が関わることの大切さを改めて感じましたし、HatchEduのような”大人の部活動”的な取り組みに参加するとエネルギーや刺激をもらえるなと改めて感じました。教育に携わる人は、自分自身が元気じゃないといけませんからね。今日はありがとうございました!

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構成・編集:飛田 恵美子
撮影(石井):竹内 弘真