「いまの教育セクターではビジネス領域での経験やスキルが必要とされていると気づいて、転職する勇気が湧いてきました」
ー坂江裕美さん(現職:教育系企業役員、前職:総合商社)
坂江裕美(さかえ・ひろみ)さんは、総合商社に勤務していた2020年、全寮制インターナショナルスクール学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン(以下、ISAK)の新規事業立ち上げプロジェクトにプロボノで参加。その体験がきっかけとなって、教育系企業に転職に繋がったお話をお伺いしました。
プロフィール
職業・所属:(現職)株式会社エンビジョン取締役/ 株式会社レアジョブ文教事業責任者
(前職)三井物産株式会社
仕事のスタイル:ファクトベースでロジカルに、でも楽しく!
先生をするなら:小中学生向けイノベーション講座の先生
学校をつくるなら:生徒が自分で考えてカリキュラムを設計する学校
新卒で三井物産株式会社に入社し、19年間商社での業務に打ち込んできた坂江さん。HatchEduへの参加をきっかけに「教育セクターで働きたい」という気持ちが高まり、英語教育サービスを提供する株式会社レアジョブに転職し、同時に子会社の株式会社エンビジョンの取締役に就任されました。HatchEduの参加期間終了後も、プロボノ先のISAKでのプロジェクトに継続して関わり、また社会起業をめざす参加者のメンタリングなども担当しています。
—坂江さんが教育に関心を抱いたきっかけを教えてください。
子どもの頃の経験からです。小学2年生までアメリカでモンテッソーリ教育を受けていて、3年生のときに日本に戻り公立小学校に通いはじめたのですが、その日自分がやることを自分で決める自由なモンテッソーリのスタイルに慣れていたので、日本の公立学校の教育にうまく馴染めなかったんです。算数の解法はいろいろあるはずなのに先生はひとつしか認めてくれないし、理科で「こんな実験がしてみたい」と提案したら「言語道断」という感じで、不満をたくさん抱えていました。
そんな私に、自身も教師であった祖父は「それが日本の学校のスタイルだから仕方ない」と諭しつつ、「あなたがやりたかったのはこういうことだよね」と知的好奇心を満たすサポートをしてくれました。祖父自身も、戦前に教育を受け、戦時中に教師になり、教えなければいけないことや価値観ががらりと変わる経験をしていたから、私の戸惑いをあたたかく受け止めてくれたのかもしれません。それがうれしくて、「将来自分も日本の教育に関われたらいいな」と漠然と思っていました。
—大学卒業後、教育セクターに進もうとは思わなかったのですか?
日本の教育セクターはなかなか変わらないだろうし、すぐに入っても何もできないだろうと考えたんです。私が学生のころはちょうど”社会貢献とビジネスの融合”に関心が集まりはじめていて自分としても熱いトピックだったので、そこに取り組めればと商社に進みました。商社であれば、いつか教育事業に携わるチャンスも巡ってくるだろうという期待もありました。
—そのまま19年間商社で働かれていますね。
金融、航空、教育、ヘルスケア、人事と部門を転々としましたが、人事部では幹部候補生向け研修プログラムをハーバード・ビジネス・スクールと一緒につくる責任者をさせてもらいましたし、1年だけですが教育部門で働くこともできました。どの部門にもおもしろい仕事はあるし、自分次第でできることはいくらでもあると感じていたので、そこまで強く外に出たいとは思わなかったんです。一方で、「いまさら新しいキャリアを切り拓くなんてできないよね」というネガティブな理由から、教育セクターに踏み込めなかったという側面もありました。
—そうしたなか、HatchEduに参加されたのはなぜですか?
会社の後輩がHatchEduの情報をSNSでシェアしているのを見て、私が「きっと変わらない」と思っていた教育を変えていこうとしている人たちが日本にもいるんだ、と感銘を受けたんです。国や大きな組織が変えてくれることを期待するのではなくて、自分たちが一歩踏み出して世の中を変える力にしていく。そうした姿勢に共感して、「ここでなら変えられる」と思い応募しました。
—プロボノ先のISAKではどんなことをしましたか?
オンライン教育事業「ISAKx(アイザックエックス)」の立ち上げに携わり、大きな組織との交渉やウェブ広告等、マーケティングまわりをお手伝いしました。3か月間のプログラムが終了した後も、教育事業者との交渉契約スキームを考えたり、プロジェクトマネジメントを担ったりと、継続して関わらせていただいています。
—プロボノを通して印象に残っていることはありますか?
ISAKxのプログラムにアフガニスタンの女の子が奨学金で参加していたのですが、「自分が学べる場はここしかない、プログラムが毎週楽しみで、ここがなかったら自分の人生をどうしていけばよかったかわからなかったと思う」と話をしていたと聞き、「やってよかった」と思いました。
—坂江さんには2021年にHatchEduの教育プロジェクト立ち上げコース(当時)参加者のメンターも担当していただきました。財務モデルを軸に、事業価値のドライバーを理解しながらディスカッションしていくスタイルのメンタリングで、参加者の方からも好評でした。
私にとってもすごくいい経験だったなと思っています。教育プロジェクト立ち上げコースには教育分野で長年活動されてきた方も参加されていて、現場のみなさんがどんなことに問題意識や関心を抱いているのかがわかりました。
また、それまでどこか「長いこと商社に勤めていたゼネラリストが外に出ても使いものにならないだろう」という卑屈な思いがあったのですが、アイデアを事業として成り立たせ、数字を味方につけて活動を継続していくことに関しては手伝えることがありそうだと思いました。「自分も役に立てるんだ」という手応えを感じて、外に飛び出す勇気を与えてもらったと感じています。
—2021年6月に、現在勤めている株式会社レアジョブに転職されていますね。
HatchEduでの経験を通して、「やっぱりやりたいのはこっちだな」と思ったんです。10年後20年後のキャリアを考えたときに、本当にやりたいのかわからない分野で頑張るよりも、教育分野に力を注ぎたいと。ちょうどレアジョブからお声掛けいただいていたので、思いきって転職することにしました。ただ、初めての転職ということもあって、決断するまでに半年かかりました。
—転職してもうすぐ1年、現在の手応えや感想を教えてください。
教育セクターの中でも「変わらなくていい」と思っている方は多くて、日々難しさを感じているのが正直なところです。一方で、新しいことに挑戦している若い人もいるし、これまでの教育セクターに囚われない新規事業を考えている人もいるし、やりがいはあると思っています。
—今後取り組みたいことはありますか?
いまミネルバ大学の修士課程で学んでいるのですが、教育のアウトカムを可視化することに取り組みたいです。エビデンスを積み重ねて、周囲の大人がどう関わったら子どものやる気が上がるのか、どういった学び方が子どもの成長に合っているのかを把握するためのシステムがつくれたらおもしろいなと思っています。
—最後に、いまプロボノをしようか迷っている方に対してメッセージをお願いします。
新しい世界に飛び込むのは勇気がいることですが、HatchEduは期間限定で取り組めるので、最初の一歩を踏み出すきっかけになるのではないでしょうか。踏み出すことで世界が広がるし、自分の人生に絶対にプラスになるので、「迷っているならやったほうがいいですよ」とお伝えしたいです。
仕事が忙しいと両立できるか不安に感じるかもしれませんが、私の場合はISAKのみなさんが柔軟に対応してくださったので問題なく取り組めました。自分がどこまでできて、どこから先は難しいのかを明確に伝えれば大丈夫だと思います。
また、自分自身が教育セクターに入って、「ビジネスサイドで経験を積んできた人の知見が必要だ」と強く感じています。GIGAスクール構想など教育セクターは転換期にありますが、教育の世界が長い方は紙ベースで授業を設計したり物事を進めたりすることに慣れていて、現在の流れに戸惑いや不安を感じている方もいらっしゃいます。
そうした部分のギャップを埋めてくださる方、教育セクターではなかなか得られないビジネスの知識・経験を持った方に力を貸していただけたら、子どもたちが育つ環境をより良くしていけるはずです。教育に対し関心を抱いているなら、ぜひ一歩踏み出していただきたいです。
HatchEduでのプロボノについてはこちら
構成・編集:飛田 恵美子
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