仕事しながらスポーツ教育を”プロボノ”支援。2人が語るプロボノの魅力とは

今回は、「NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブ」の活動にプロボノとして参加した横田直道さんと山口紗都美さんにお話を伺いました。

横田直道さん
職業・所属:プロ野球球団職員 (当時)
仕事のスタイル:フリースタイル(結果は問うが、プロセスは問わない)
学校をつくるなら:地域や企業が積極的に参画し、社会とシームレスに繋がる学校
先生をするなら:部活動・スポーツ活動を統括するディレクター

山口紗都美さん
職業・所属:あしなが育英会
仕事のスタイル:“できない”理由探しより、”できる”機会づくり。ワクワクを忘れない!
学校をつくるなら:時間や日によって様々な立場の老若男女が利用できる学校
        (地域で子どもを育てられる場)
先生をするなら:英語で探求学習!

人生のテーマは「スポーツを通じて社会の課題を解決する」 (横田さん)

ーおふたりとも、もともと「スポーツ×教育」に関心があるということで、HatchEduでは「NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブ(以下、SCI)」の活動に参加し、スポーツを通じて「勝利」と「人間的成長」の両方を目指すコーチング・メソッド「ダブル・ゴール・コーチング」の普及支援に取り組まれました。まず、HatchEduに参加しようと思った経緯から教えてください。

横田:私は、青年海外協力隊として南アフリカ共和国に行き「スポーツを通じた青少年教育」をテーマに2年間、活動に取り組みました。当時はアパルトヘイトが終わっておよそ10年後で、まだまだ人種や出自によって生活環境が大きく分かれていました。でもスポーツの場は、唯一といっていいぐらいにその人たちが混ざりあうことができる場所でした。そこでの経験を経て、スポーツを通じて社会をよりよくすることは可能だと思うようになりました。

そこから、「スポーツを通じてより良い社会をつくる」ということが私の人生の大きなテーマになりました。帰国後は、国内のプロ野球球団に入社し、事業開発や商品開発の仕事をしていましたが、どこかで子どもや教育に関連する事業がやりたいという思いがあったんです。そんなときに、SNSでHatchEduが始まることを知りました。教育プロボノコースであれば、仕事をしながら直近の教育現場の事情や最新の教育に関する取り組みの情報が得られるかもしれないと思い、参加することにしました。

HatchEduには、「教育について学びたい」という気持ちから参加したので、受け入れ団体にスポーツ教育に取り組むSCIがあったのは、本当にたまたまなんです。でも、自分が薄々考えていたこととSCIがやろうとしていることには、リンクする部分がかなりありました。

僕が感じていたのは、日本のスポーツの現場で教えられていることと社会で必要とされていることにミスマッチが起きているということでした。SCIが普及しようとしているダブル・ゴール・コーチングがスタンダードになれば、本当の意味でスポーツを通じた教育ができるかもしれないと感じたんです。

HatchEduなら仕事をしながらスポーツの取り組みに関わることができる(山口さん)

山口:私は子どもの頃からサッカーをやっていて、女子サッカー部のある高校に入学し、寮生活をしていました。でもそれが大変な3年間だったので、いったんサッカーとは距離を置こうと思い、大学では国際協力を学ぼうと、ドイツとボスニア・ヘルツェゴビナに留学したんです。

その留学先で、サッカーをやっていたからこそできたつながりが本当にたくさんあったんですね。サッカーひとつでこんなに人と人がつながれる。さらにその先で、サッカー以外のことにもつながっていく。その発展の仕方に可能性があると感じ、やっぱりサッカーを通じた教育に関わることをやっていきたいと思うようになりました。

大学を卒業後は、青年海外協力隊として海外に派遣される予定でした。ただ、私が派遣されるタイミングでパンデミックが起こり、結局中止になってしまいました。今は、あしなが育英会の教育支援事業の仕事をしており、教育にはしっかり携われている一方で、スポーツの要素はまったくないので、そこが私にとって悩ましい部分ではありました。

そんなとき、 2020年の受入団体をされた方からHatchEduをご紹介いただきました。実は、SCIの代表の小林さんとは、私がボスニアに行く前にお会いしたことがありました。そして、その頃よりも団体がパワーアップしているように見えました。このタイミングでまた出会えたことにご縁を感じ、ぜひ参加してみたいと思いました。仕事を続けながらスポーツの取り組みに関われることも魅力でしたね。

ひとりの親としても成長できた(横田さん)

ーおふたりとも、SCIではどんなプロジェクトに参加されたんですか?

横田:私は、外部視点でコンテンツを精査することをやっていました。その頃は、文部科学省で部活動を外部化することが議論されていた時期だったので、そのあたりのリサーチもやりました。

ー横田さんは2020年のプロボノ修了後もボランティアとしてSCIのお手伝いをされていると伺いました。

横田:とにかくSCIの活動はすばらしいと思ったし、自分の子どもがちょうどスポーツを始めて、親として子どもによりよいスポーツ環境をつくるにはどうしたらいいかを考えていたところでした。だからSCIを手伝うことで、自分自身がもっと学べたらという思いがありました。

今は、バックエンド側のサポートをやらせてもらっています。会計やファイナンスなどの基盤が整えば、コンテンツを拡大させていくことに集中できるだろうと思ったからです。

山口:私は、主にスポーツ指導者に対してダブル・ゴール・コーチングのメソッドを普及させる活動のお手伝いをしました。ダブル・ゴール・コーチングに賛同する指導者のコミュニティをもっと広げていくにはどうしたらいいかという話し合いを重ね、SCIのFacebookグループに参加している人を対象に、現場での課題や所感を話し合う企画を月に1回程度やっていました。

また、SCIのプロジェクトに参加したプロボノ同期の3人で、せっかく教育に関心がある人が集まる場が身近にあるんだからと、HatchEduの参加者を対象にワークショップもやりました。いろいろな方が質問やコメントをざっくばらんにくださって、とても勉強になりました。特に学校の先生から、現場でダブルゴールを活かすとしたらどうするかという話が聞けたのはよかったです。私たちが勝手に考えていた活かし方や課題感とはちょっと違うリアルな声が聞けたんです。そういう意味でも考え方の幅が広がったように感じました。

ー横田さんから見て、山口さんの活躍ぶりはいかがでしたか?

横田:まず、日本のスポーツ界全体がそうなんですけど、男性色が強いんですね。だから、男性的な視点でしか課題発見ができないところがあるんです。2021年のプロボノメンバーは3名は、たまたまみんな女性で、もっている視点がすごくよかった。「ここは言ってることがよくわかりません」とか、結構厳しいことも言ってくれるんです(笑)。三者三様の立場があって、それぞれに意見をくれたので、団体としても視点や視野がすごく広がったと思います。

―SCIのプロジェクトに参加したことでどんな学びがありましたか?

横田:自分自身の学びとしては、SCIのコンテンツを深く知ることによって、ひとりの親としてすごく成長できたところがあると思います。子どもの成長を待てるようになったというか、起こった出来事に対してまず観察し、子どもが結果に対してどういうアプローチをしようとしていたのかに、ちゃんと目がいくようになりました。

それと、あらためて「スポーツ」と「教育」がとても相性がよいことを実感しました。学校や地域の現場で、スポーツを有効に活用してもらえるアプローチができればいいなということは、より強く思うようになりましたね。

ダブル・ゴール・コーチングのワークショップの様子
(提供:スポーツコーチング・イニシアチブ)

山口:私は今、本業で教育支援事業を運営していますが、その現場で考えていることと、SCIのプログラムの内容とのつながりを実感しました。例えば、ダブル・ゴール・コーチングに、「結果じゃなくてプロセスを評価する」という考え方があるのですが、教育支援の現場でも「まさにこれだな」と感じることが何度もありました。

それと、サッカー以外の競技の指導者の方と接点をもつことができ、お話を伺えたこともよかったです。私自身の中で視野が広がったからこそ、サッカーを客観的に捉え直し、その魅力にもあらためて気づくことができたと感じています。

自分の軸にあてはめて考えることができるのがHatchEduの良さ(山口さん)

―HatchEduのプログラム自体の魅力はどんなところだと思いますか?

山口:受け入れ団体にSCIがあったことはもちろんですが、いろいろな方のお話が聞けるワークショップやイベントに無料で参加できるということも魅力でした。実際、オープンなイベントとは違ったリアルな声をたくさん聞くことができ、学びが多かったと感じています。研修当日に参加できなくても、録画が共有されたのですごく助かりました。

横田:「本当にこんな話が無料で聞けていいの?」と思うぐらい、濃いレベルの話が聞けるところは、HatchEduの特長だと思います。「事業として成長していくためにはどういうアプローチをしていけばいいのか」をリアルに学べるのがすごくよかったです。

ー横田さんは、アルムナイ組織の幹事になってくださいましたよね。

横田:実は先日、ほかのHatchEdu参加者の方たちと初めて対面でお会いしたんですが、あっという間に打ち解けることができ、すごく盛り上がりました。みんな、「よりよい教育をつくっていきたい」という思いが根底にある人たちなので、お互いに信頼関係をもってスタートできたのだと思います。だからアルムナイ・コミュニティも、あまり難しいことは考えずに、参加者同士がコミュニケーションがとれる場をつくっていけば、自然とそこから新しいことが生まれるんじゃないかなと期待しています。

ー最後に、今後HatchEduに参加を検討されている方にメッセージをお願いします。

横田:教育というとどうしても学校が思い浮かんでしまいますが、HatchEduはもっと広く、よりよい未来をつくっていくためにはどうしたらいいのかを話す場だと思っています。自分自身が教育の仕事をしているかどうかは関係なく、教育に携わる人たちと一緒に、よりよい未来をつくっていくコミュニティの一員になれるプログラムだと思います。

山口:HatchEduに参加することで、これまで知らなかったいろいろな現場を知り、自分自身の個性を活かしながら、学びを得ることができました。参加を検討している人は、何かしらやりたいことがある方が多いと思いますが、ある意味で、なんでも自分の軸に当てはめて考えることができるのがHatchEduの良さだと思います。教育に関わっている方々のエッセンスが、どういうふうに自分の軸とリンクしているのかに気づくことができる場。だから私も、また違うプロジェクトに参加したいと思っていますし、将来的には教育プロジェクト立ち上げコースにも参加したいと考えています。

※本文中のコース名はいずれも当時のものです。


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構成・編集:平川 友紀