「ビジネスパーソンがもっとソーシャルセクターに参画したら、社会はよくなっていくはず」

Hatcheduでは、教育アクセラレーター・プログラム参加団体に対し、プロボノ(スキルを持ったボランティア)の方のご紹介も行っています。参加団体のひとつKids Code Clubでは、2022年10月から12月にかけて、6名の方が3つのプロジェクトにプロボノとして参加。そのうち、ファンドレイジングプロジェクトで寄付募集ページの作成に携わった福田智史さん、横山かよ子さん、名城政秀さんにお話を伺いました。

◉福田 智史(ふくだ・さとし)さん
エンジニア、ウェブディレクター、ウェブマーケティングなどの仕事を経て、現在は製薬会社勤務。2013年から7年間、発達障害者を雇用する特例子会社のCEOも務めた。チーム内では「サトシさん」と呼ばれる。
◉横山 かよ子(よこやま・かよこ)さん
インターネット広告代理店に新卒入社し、14年ほどデジタルマーケティングに関わる仕事に従事。働きながら至善館大学院で学び、2023年に修士修了。チーム内では「カヨさん」と呼ばれる
◉名城 政秀(なしろ・まさひで)さん
新卒から5年ほど経営コンサルティング会社に勤め、育休を取りながらハーバード大学教育大学院で学び、2023年に修士修了。チーム内では「マサさん」と呼ばれる。

Kids Code Clubについては過去の記事もご参照ください。

よいチームカルチャーが最初からあった

—プロボノに応募してくださった背景を教えてください。

名城:教育事業のスタートアップに関わりたくて、以前からHatchEduのニュースレターに登録していました。Kids Code Clubのプロボノ募集のお知らせを見て、すぐに応募を決めた記憶があります。私自身が沖縄出身で教育格差の問題が身近だったこともあり、「テクノロジーを楽しく学ぶ環境をすべての子どもに届ける」という理念に共感したんです。また、教員免許は持っているものの教育業界で働いたことはなかったので、子どもたちに近いところで経験を積ませてもらえたらという想いもありました。

横山:私は教育に特別関心があったわけではないのですが、長いこと同じ会社で働いているので「外の世界に触れないと」と思っていて。大学院で開かれた小林りんさん(UWC ISAK Japan代表理事)のセミナーでHatchEduのプロボノ・プログラムを知り、ニュースレターに登録しました。その後しばらく忘れていたのですが、Kids Code Clubのプロボノ募集を見て、「何かお役に立てるかな」と思い応募しました。

福田:小学一年生の子どもがゲーム好きなので、「じゃあ自分で作ってみようよ」といろんなプログラミングの体験教室をのぞいてみたんです。でも、どこも月謝がすごく高い割に、使っているソフトは教育版マインクラフトのような安価なもの。無料でできるプログラミング教室もあるんじゃないかな、と探すなかでKids Code Clubを見つけて、取り組みがすばらしいと感じ大好きになりました。SNSをフォローしていたらプロボノを募集する投稿が流れてきて、応援したいと思い応募しました。

ハーバード教育大学院で「自分がつくりたい学校」のプレゼンをする名城さん。
アメリカで学びながらオンラインで日本の非営利団体のプロボノに参加。

—3か月、どんなふうにプロジェクトを進めていったのでしょうか。

名城:最初にKids Code Clubの石川麻衣子さん・川添浩司さんと「12月までに達成したいこと」を話し合い、「寄付ページの公開は絶対に達成しましょう」と合意しました。そのために必要なことを逆算して、ターゲット層やほかのNPOへのヒアリング、寄付プラットフォームのリサーチを行い、集まった情報をもとに寄付ページを作成して広告運用をして、という流れですね。役割分担も自然に決まっていって、最初からいいチームカルチャーがありました。

横山:マサさんが全体をファシリテートしてくれて、サトシさんが寄付ページの文章を担当してくれて。各々が得意なところのボールを主体的に持ち、それがうまくいった感じでしたね。

福田:カヨさんは議事録やtodoリストの作成、広告運用を担当してくれましたね。Kids Code ClubにはNotionやDiscord、GoogleワークスペースなどのITツールも揃っていたので、遠隔で仕事がしやすかったです。

—期間中はプロボノにどれくらい時間をかけましたか?

名城:ミーティングを含め週に3〜5時間程度でしょうか。私は最初にヒアリング項目を作成するところだけ集中して時間を取りましたが、それ以降はあまり忙しくなかったです。

福田:僕は寄付ページの文章を書くときだけ、仕事終わりに集中してやっていました。広くお金を集めるなら、Kids Code Clubにしかできないことを伝える必要があります。Kids Code Clubのみなさんにヒアリングして、ウェブ上で読めるインタビューを全部読んで、自分のなかで腹落ちしてから書きたかったのですごく時間がかかりました。でも、大変だったのはそれくらいかな。

横山:私も、広告運用を始めるタイミングで何度か休日の半分を使いましたが、それ以外は平日に少し時間を割く程度でした。ただ、プロボノ期間中に広告を出すことまではできたものの、成果を出すには反響を見ながら改善していく必要があります。そこまでちゃんと担当したいと思い、HatchEduのプロボノ・プログラム期間が終了した現在もゆるやかにサポートを続けさせていただいています。

横山さんは本業で培った専門性を活かしプロボノでも活躍。会社で働きながら大学院にも通われていました。

新たな成長機会としてのプロボノ

—3か月間の感想を教えてください。

名城:子どもたちに無償で学びを提供するための資金調達が簡単ではないことを強く感じました。ずっと助成金頼みだとサステナブルではないし、かといってほかの方法も難しい。私も将来、できるだけ生徒の負担が少ない学校をつくりたいと思っているので、このタイミングで非営利組織の資金調達のプロセスを垣間見ることができてよかったです。

横山:これまで一つの会社で働いた経験しかなく自分のスキルがどこまで汎用的なのかがわからなかったのですが、広告運用のノウハウや、課題が明確になっていないプロジェクトの整理・進行手順など、意外と役に立てるんだな、という感触がありました。

福田:僕は、プロボノということでお金をもらっていない分、遠慮せず言いたいことが言えたなと思っています。本業では「本当はここを変えたほうがいいんだけど……」と思いつつ、人間関係の摩擦や役割の範囲を気にして押し殺すことが多いのですが、プロボノでは熱量のままに「ここはこうしたほうがいい」と伝えることができました。

一方で、言いたいことを言うと、夜になって「なんであんなこと言っちゃったんだろう」と後悔して眠れなくなって、「その分頑張ろう」と奮起したりして(笑)。
自分をさらけ出したことで、本質的な課題や直さなければいけないところに気づくことができました。人として成長できる機会になりましたね。

横山:「支援してもらうには綺麗なストーリーだけじゃダメで、ほかの団体にはできないことを伝える必要がある」とか、サトシさんは現状では不十分だと思うところをはっきりと伝えられていましたよね。最初は「そこまで踏み込むんだ」と驚きましたが、それこそが外部の人がプロボノとして関わる意味なんだろうなと思いました。

—ご自身にとって学びになったこと、糧になったことはありますか?

横山:普段の仕事では自社のプロダクトやサービスに人生をかけているような方とお会いすることはあまりないけれど、Kids Code Clubのみなさんは「自分の時間をいくら使ってもいいからとにかくこれを実現したい」という熱量を持っていて、それを近くで感じながらお手伝いできるというのは貴重な経験だと思いました。

名城:教育業界ではいま「教えない教育」や「子ども主体の学び」が注目されていますし、私もまさにそれに取り組みたいと考えているのですが、ただ子どもに任せればうまくいくものではありません。学び合いの文化を醸成する必要があり、ファシリテーターのスキルが問われてくるところだと認識しています。放課後プログラミング教室は、子どもが主体となって周囲の子と協力しながら学びを得ていく環境ができていて、とても高度なことをされていると思ったし、勉強になりました。

Kids Code Clubのみなさんは子どもたちの反応をちゃんと見て、どんな小さな変化でも必ずチーム内で共有されているんですよね。「あの子は積極的になってきたね」とか。子どもたちの変容や成長を把握して学び合いを加速させているし、それが熱量の源泉にもなっているんだなと感じました。

福田:プロボノって、ミドル・シニア世代のリスキリングの機会としてすごくいいなと思いました。大きな会社にいるといろんな学習プログラムを無料で受けられたりするけど、実務経験に勝る学びはありません。自分が持っていない専門知識を持った人たちと一緒に働くと考え方を吸収できるし、手を動かすことでわかることも多い。それで社会貢献もできるなんて一石二鳥じゃないですか。

僕自身、以前はよくクラウドファンディングの文章を作成していたので得意だと思っていたけど、久しぶりに書いてみたら腕が鈍っているのを感じました。でも、やっていくうちに感覚を思い出してきたので、このタイミングで取り組めてよかったと思っています。管理職が現場の感覚を取り戻す機会にもなりますよね。また、マサさんやカヨさんから学んだこともめちゃくちゃありました。マサさんが言っていたことをそのまま部下に話したこともあります(笑)。

障害者を雇用する特例子会社のCEOを務めた経歴などから講演もされる福田さん。
HatchEduのプロボノに参加する以前にも様々なプロジェクトでプロボノをされていました。

やる前に悩むよりも、やってみてから考えたほうがいい

—最後に、HatchEduのプロボノ・プログラムに関心を持っている人に向けて、メッセージをお願いします。

名城:受け入れ団体の掲げているミッションに共感できて、少しでもプロボノをやってみたいという気持ちがあるなら、絶対に一歩踏み出してほしいです。それによって団体も助かるし、自分も得るものがたくさんあるから。最初は悩むかもしれないけど、始まってから調整していけばいいので、まずは応募してみてはいかがでしょうか。

横山:私も同じ気持ちです。こうしたプロボノに参加するのは初めてなので「役に立てるのかな」とかいろいろと躊躇がありましたが、参加してみてわかったこともあったし、大きく価値観が変わりました。応募を迷っていた私に、「悩むくらいなら、一度やってみてから考えたほうがいい」と伝えたいですね。

福田:「年齢を気にするな」と言いたいです。ミドル世代、シニア世代からすると、プロボノって若い人がやっているイメージがあってとっつきにくく感じるかもしれません。でも、人生百年時代、会社以外のサードプレイスは絶対に必要になってくるはず。興味があるのに年齢を理由に踏み出せないのはすごくもったいない。

それに、同じ会社で20年、30年働いている人は、自分で気づいていないだけで高い専門性やスキルを持っているものです。ソーシャルセクターに勤めている人はお金儲けが苦手なことが多いけど、ビジネスの世界で長く生きてきた人たちは収益を上げること・経費を削減することに長けています。ビジネスパーソンが貢献できる余地は大いにあるはず。そういう方がソーシャルセクターに参画してくれたら、社会はよくなっていくんじゃないでしょうか。

福田さん、横山さん、名城さんチームが作成した寄付募集ページ

Kids Code Club 川添さんからのメッセージ:

HatchEduの「教育アクセラレーター・プログラム」に参加するまで、全部自分たちでやらなくてはいけないと背負い込んでは全然手が回らず、「やりたいことがあるけど、できないことばかり」で非常にストレスを感じていました。
プロボノ・プロジェクトを始める時も、最初から最後まで自分たちでリードしなくてはいけないのかな、むしろ仕事が増えるんじゃないかな、と正直心配していましたが、全くの杞憂でした。

参加してくださった方々が本当に素晴らしく、ビジョンはあるけどそれをずっと言語化できなかった私たちに根気よくヒアリングをしてくださいました。
例えば、寄付募集ページの構築に際しては、私たちのプログラムに参加している子どもたちが「自分たちは”支援される対象”なんだ」と変に悲しい気持ちにならないようにしていただきたいとお願いし、実際にそのような形にしていただきました。6名のプロボノの皆さんがそれぞれに専門性を活かしながら期間内にプロジェクトのゴールまで導いてくれたおかげで、私たちも自分たちの基幹事業に集中することができました。

私たちのような非営利団体は、企業とは異なり、経験豊富で専門性を持つ人材にリーチするのはなかなか難しいのですが、プロボノ・プロジェクトはそういう方々と出会うことを可能にし、力をお借りできる貴重な場だと感じました。
何よりも、私たちも「人に頼ること・任せること」の大切さを学ぶことができました。本当にありがとうございました!


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構成・編集:飛田 恵美子