HatchEduの協働パートナー団体である、一般社団法人Kids Code Club(キッズコードクラブ)を前編・後編の2回に分けてご紹介します。
Kids Code Clubは、経済的理由から学びの機会が制限される子や生きづらさを感じている子など、多様な背景をもつ小中学生に対し、プログラミング学習・ITスキル獲得の機会を無料かつオンラインで提供している団体です。これまで、のべ8千人以上の子どもたちがプログラムに参加。また、無料公開しているプログラミング学習アプリ「キッズコードレシピ」は公立学校などでも活用され、利用者数30万人を突破しています。
前編では、代表理事の石川麻衣子さんがKids Code Clubを立ち上げた経緯と現在挑んでいるチャレンジについて、後編では、HatchEduを通じての協働プロジェクトについてチームメンバーの皆様も交えてお話を伺います。
石川さんは、九州大学工学部に入学をしたものの、経済的な事情から中退。その後は日雇いベースの仕事で生計を立てる「ワーキングプア」状態にあった中、プログラミングを学んだことがご自身の人生を変える転機になったそうです。
プログラミングを修得したことで、IT関係の仕事なども請け負うことができるようになり、経済的自立が叶いました。
ただそれ以上に、プログラミングを通じて「とりあえずやってみて、フィードバックをもらって、そこからどんどん良くしていく」という姿勢、そして試行錯誤しながら前に進む力を身につけられたことが、人生を変えるきっかけになったと思います。
子どもたちが「困難の中にあっても前に進む力」「自ら学び続ける力」を早い時期から身につけ、自分の人生を自分で切り拓いていくきっかけにしてもらえたら。そうした思いを同じくする仲間とともに、石川さんはKids Code Clubを2016年に立ち上げました。
Kids Code Clubの活動の中心は、週2回オンラインで開催される「放課後プログラミングクラブ」。毎回40〜50人があっという間に集まる人気プログラムです。
子どもたちは思い思いのアバターとニックネームを使い、ポップな遊園地風のバーチャル会場に入室します。入室後は、「ワイワイ一緒に作る部屋」「ひとりで黙々と作りたい人の部屋」「気軽に質問OKな初心者部屋」などに分かれ、最後はみんなで集まり、作品を発表したい人が発表する場となります。
セッション中にオープンになっているチャットでは、子どもたち同士で質問に答え合ったり、フィードバックをしたりといったやりとりも活発です。
2025年以降、大学入学共通テストの科目に「情報」が追加されることが決まり、プログラミング・ITスキルを学ぶ重要性がますます高まっています。「学校の授業以外の場でもプログラミングを学びたい」というニーズが高まる一方で、プログラミング教室は”講師に求められる要件が高いことから、人件費が高くなりがち”という構造があり、結果として月謝が比較的高い「習いごと」になっています。
Kids Code Clubでは、「知識技能のある大人が子どもに教える」のではなく、子どもたちが「自分で学ぶ」「友達と学び合う」スタイルをとっていること、またボランティア参加の大人のファシリテーターがサポートすることで運営可能な仕組みをつくっていることで、運営費を抑制し、無料で提供することが可能になっています。
無料であることは、経済的障壁を下げることだけに留まらず、学びの場としての魅力にもつながっています。
子どもたちは「既に月謝を払ってしまっている義務感から」ではなく、純粋に学びたいから集まる。
大人も、「受け取った月謝に見合うだけの知識やスキルを身につけさせなくては」という義務感から開放され、子どもたち同士の学びが予期しない方向に広がってもあたたかく見守る余裕がある。
「評価されない場である」という安心感から、子ども同士で自由に質問を重ね、「キッズTA(ティーチング・アシスタント)」などの形でコミュニティに還元しようとする子たちも出てくる。
Kids Code Clubでは、そのような好循環が生まれています。
Kids Code Clubは、「多様な子どもたちが参加することで、学び合いの質が豊かになる」という考えから、要支援家庭の子どもたちだけを対象とするのでなく、参加に所得制限等の要件を設けず、すべての子どもたちに門戸を開いています。
ただ、現代の教育は情報戦。「楽しく学べる無料の教育プログラム」となると、教育熱心で情報収集に長けた保護者からの申込みで定員が埋まってしまう事態も起こりえます。
そこで、Kids Code Clubでは、地域の支援団体とも協力しつつ、困難を抱える子どもたちに能動的にリーチしています。また、パソコンの貸与などで環境的な障壁を取り除くことに加え、1対1のセッションを通じて子どもたちや保護者と丁寧な対話を重ね、ひとりひとり異なる「学びたい」という気持ちのフックを探し出して、継続参加につながるようなはたらきかけを行っています。
その結果、「経済的な理由でプログラミングを学ぶ機会が制約されている参加者」が半数というバランスを維持し、ターゲット層にリーチしつつ、多様性のある学び合いの場を実現しています。
これからの社会において、「21世紀型スキル」と呼ばれる力( 批判的思考力・問題解決能力・協働する力・自ら学び続ける力など)が重要になると指摘されて久しいものの、教育への公的支出が少なく、学級規模も大きい日本においては、公立学校の教育だけでは行き届かない部分も多く、学校外の教育の果たす役割が大きくなりがちです。
経済的に余裕があり、教育熱心な家庭に育つ都市部の子どもたちは、学校外のさまざまな教育プログラムに参加することで、こういった「21世紀型スキル」を伸ばす機会へのアクセスを得ています。
一方で、経済的に困難を抱える家庭の子どもたちに対しては、食事を提供する「こども食堂」や、基礎学力習得のための学習支援を行う団体は全国的に増えているものの、「21世紀型スキル」が習得できる機会はまだまだ希少です。
Kids Code Clubでは、このような「新しい教育格差」が生み出されていることに着目。プログラミングやITスキルの習得を通じて論理的思考力などの高次思考スキルを育てると同時に、「自ら学ぶ」「仲間と学び合う」経験からレジリエンスや協働力といった非認知能力も身につけられる機会を、困難な環境にある子どもたちにも確実に届けることをめざしています。
世界をみると、「カーン・アカデミー」のカーンさんが新しく始めたオンライン学習プラットフォームなど、ピア・ラーニング(学習者同士が互いに協力し学び合う学習方法)を通じて「教育格差」を埋めるイノベーションが数多く生まれています。
テクノロジーの進化と共に、やる気があれば「自ら学ぶ」「共に学ぶ」ことができる素晴らしいプログラムが世界にはたくさん存在しているのに、日本では言葉の壁から十分に活用されていないことをもどかしく感じています。
まずは、日本の現状にあわせて「放課後プログラミングクラブ」を進化させ、より多くの子どもたちに届けられるようにすることで、「生まれた環境に関わらず、子どもたちが好きなことを存分に学び、また自分で学び続けるきっかけが得られる社会」づくりに貢献したいと強く願っています。
▼▽後編記事へ続く▽▼
【HatchEduでのプロボノについて】
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